- 法人の不動産売却益は総合課税、実効税率30〜34%程度の負担に
- 個人にある「損益通算」という考え方は、法人には存在しない
- 特例や退職金の活用など、負担を抑えられる余地は複数ある
法人が所有する不動産を売却する際、「個人の場合とどう違うのか」「どれくらい税金がかかるのか」と疑問に感じたことはありませんか。
法人の不動産売却は、個人の場合と税金の仕組みが大きく異なるため、想像以上に税負担が増え、戸惑う方もいるでしょう。
そこで本記事では、法人の不動産売却でかかる税金の計算方法と、活用できる節税対策まで解説いたします。
法人所有の不動産売却をお考えの方は、ぜひご参考になさってください。
法人の不動産売却は
個人と何が違う?
法人と個人で最も違うのは、売却益の「課税の方法」です。
法人は本業の利益や他の事業所得とすべて合算して税額を計算する「総合課税」、個人は不動産の売却益だけを切り離して計算する「分離課税」という、根本的に異なる仕組みが採用されています。
この課税方式の違いから、課税される税金の種類も、損益通算の可否も、消費税の扱いも枝分かれしていきます。まずは、法人と個人の違いを整理しましょう。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 課税方式 | 総合課税 (他の所得と合算) |
分離課税 (不動産所得のみで計算) |
| 税金 | 法人税・法人住民税・法人事業税など | 譲渡所得税 (所得税+住民税) |
| 損益通算 | 制度としては 存在しない |
不動産の 譲渡損益間で可能 |
| 消費税 | 建物部分に課税される | 課税されない |
総合課税(法人)と分離課税(個人)
総合課税:不動産の売却益を本業の利益や他の事業所得とすべて合算して税額を計算する方式
分離課税:不動産の売却益だけを切り離し、他の所得と関係なく税額を計算する方式
法人は総合課税のため、本業が好調な年に不動産を売却すると税負担は重くなります。反対に本業が赤字の年なら、売却益が加わっても影響は抑えられるでしょう。
損益通算
個人の制度:ある所得の赤字を、別の所得の黒字から差し引ける仕組み
法人の実情:所得区分そのものがなく、損益通算という制度は存在しない
ただし法人の場合、売却損はすべての損益と自動的に合算されます。
例えば、本業の利益が3,000万円、不動産売却の損失が1,000万円なら、課税対象は2,000万円まで圧縮されます。
消費税の課税範囲
土地の売却:「権利の移転」とみなされ、消費税の課税対象外
建物の売却:「資産の譲渡」とみなされ、消費税が課税される
例えば、土地4,000万円・建物1,000万円で売却する場合、消費税がかかるのは建物部分のみです。具体的な計算方法は、次章で解説します。
- 国税庁「損益通算」
- 国税庁「地代、家賃や権利金、敷金など」
- 国税庁「個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」
法人の不動産売却でかかる
税金の種類と計算方法
法人が不動産を売却して利益が出ると、実効税率30〜34%程度の法人税等が発生します。この章では、その内訳と具体的な計算方法を見ていきましょう。
法人税等の内訳
法人税等は、以下の4つの税金の総称です。
| 税金 | 税率の目安 |
|---|---|
| 法人税 | 資本金1億円以下は年800万円まで15%、 超過分は23.2% |
| 地方法人税 | 法人税額×10.3% |
| 法人事業税 | 所得400万円以下3.5%、 400万円超800万円以下5.3%、 800万円超7.0%(資本金1億円以下の場合) |
| 特別法人事業税 | 法人事業税(所得割)額×37.0% (資本金1億円以下の場合) |
| 法人住民税 | 法人税額×7.0%+均等割(赤字でも発生) |
※中小法人の15%軽減税率は2027年3月31日までの時限措置です(本則税率は19%)。
適用期限が延長されない場合、2027年4月1日以後に開始する事業年度からは税率が変わる可能性があるため、最新の税制改正情報をご確認ください。
これらを合算すると、実効税率は先述の30〜34%程度になります。
しかし、資本金や所得額に加え、各自治体が定める独自の税率(超過税率)によっても実際の税率が変動するため、正確な金額は税理士への確認が必要でしょう。
印紙税はいくらかかる?
国税庁によると、不動産の譲渡に関する契約書のうち記載金額が10万円を超えるものは、2027年3月31日まで軽減税率が適用されます。契約金額に応じた印紙税額は以下のとおりです。
| 契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
|---|---|---|
| 10〜 50万円以下 |
400円 | 200円 |
| 50〜 100万円以下 |
1千円 | 500円 |
| 100〜 500万円以下 |
2千円 | 1千円 |
| 500万〜 1千万円以下 |
1万円 | 5千円 |
| 1千万〜 5千万円以下 |
2万円 | 1万円 |
| 5千万〜 1億円以下 |
6万円 | 3万円 |
| 1〜5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
消費税はいくらかかる?
消費税がかかるのは建物部分のみで、土地には課税されません。売却価格の内訳によって、実際に上乗せされる金額は以下のようになります。
| 内訳 | 消費税額 | 買主が支払う総額 |
|---|---|---|
| 土地4,000万 +建物1,000万 |
100万 | 5,100万 |
| 土地3,000万 +建物2,000万 |
200万 | 5,200万 |
同じ5,000万円の売却でも、建物の割合が大きいほど消費税額は増えるため、価格交渉の際は内訳にも注意が必要です。
法人と個人、税額はどれくらい違う?
法人には所有期間による税率の区別がありません。しかし個人の場合、所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分かれ、税率が大きく変わります。
長期譲渡所得(所有期間5年超)
具体的な要件と税率は次のとおりです。
- 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合に適用される
- 税率は所得税15%・住民税5%(合計20.315%、復興特別所得税を含む)
- 所有期間が長いほど税率が優遇される仕組み
短期譲渡所得(所有期間5年以下)
具体的な要件と税率は次のとおりです。
- 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合に適用される
- 税率は所得税30%・住民税9%(合計39.63%、復興特別所得税を含む)
- 長期譲渡所得の約2倍の税率
短期間での転売を検討している場合は、この税率差を踏まえた資金計画が欠かせません。
税額シミュレーション
同じ売却益1,300万円(譲渡価額3,000万円-取得費1,500万円-譲渡費用200万円)で比較してみましょう。
| 項目 | 法人 | 個人(長期譲渡) | 個人(短期譲渡) |
|---|---|---|---|
| 適用税率 | 実効税率 約34% |
20.315% | 39.63% |
| 税額の目安 | 約442万円 | 約264万円 | 約515万円 |
長期保有の不動産であれば、個人で売却した方が税負担は軽くなることがあります。
しかし短期保有の場合は状況が逆転し、法人の方が有利になるケースも出てくるでしょう。
つまり、法人と個人のどちらが得かは一概には言えず、所有期間によって結論が変わるということです。
- 国税庁「法人税の税率」
- 国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」
- 総務省「法人事業税」
- 千葉県「特別法人事業税(国税)が創設されました」
- 中小企業庁「法人の軽減」
- 国税庁「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
- 国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」
- 国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」
法人が使える特例・節税対策
法人の不動産売却でも、いくつかの特例や工夫を組み合わせれば、税負担を軽減できる余地があります。代表的な5つの対策を見ていきましょう。
①長期所有土地等の特別控除
2009〜2010年に取得した土地を、5年を超えて所有してから売却する場合に使える特例です。
控除額:譲渡益の金額と1,000万円のいずれか低い方(1,000万円は上限であり、譲渡益がそれ未満なら全額が控除対象)
この特例が使えないケース
- 特殊関係者(グループ会社・関係者等)から取得した土地
- 合併・分割・贈与・交換・現物出資・現物分配によって取得した土地
- 所有権移転外リース取引や代物弁済によって取得した土地
- 収用・買取り・換地処分・権利変換・買収による譲渡
- 特定土地区画整理事業等のための譲渡
- 交換により取得した資産の圧縮記帳等の適用を受ける譲渡
- 適格合併・適格分割・適格現物出資・適格現物分配による土地等の移転
- 同一事業年度・同一年中に譲渡した他の土地等について、特定資産の買換えの場合の圧縮記帳等の適用を受けている場合
- 清算中の法人
②収用等の場合の特別控除
道路拡幅や区画整理といった公共事業のために不動産が収用された場合は、より控除額の大きい特例が使えます。
対象:公共事業のために不動産が収用された場合
要件:買取り申出があった日から6か月以内に譲渡すること
控除額:譲渡益と5,000万円のいずれか低い方
要件を満たせば控除額は先述の特例より大きくなるため、収用の話が出た際は6か月という期限を意識して手続きを進める必要があります。
③売却日を選んで事業年度を調整する
前章で触れたとおり、法人の税負担は本業の業績次第で変わります。この性質を利用し、利益が少ない事業年度に売却日を合わせれば、税負担を抑えられるでしょう。
収益(売上)を計上するタイミングのルール
原則:「引渡しがあった日」が属する事業年度に計上する
例外:「契約の効力発生の日(契約日)」に計上している場合も認められる
引渡日が明確でない場合:以下のうち、早い方の日を引渡日とできる
- 代金の相当部分(概ね50%以上)を受け取った日
- 所有権移転登記の申請をした日
契約締結日と引き渡し日で事業年度をまたぐ場合は、どちらを基準にするかで税負担が変わるため、決算のタイミングとあわせて検討しましょう。
④新規物件の購入で減価償却を活かす
建物は年数が経つほど価値が減っていくとみなされ、その減った分を毎年の経費として少しずつ計上できる仕組みです。この経費を「減価償却費」と言います。
不動産を売却した年度に新しい不動産を購入すると、その建物の減価償却費が経費として計上され、その年の利益(課税所得)を圧縮できます。
減価償却費の大きさは「耐用年数(税法上、その建物が使えるとされる年数)」によって決まります。
耐用年数が短い物件(木造・軽量鉄骨造など)
→ 1年あたりの減価償却費が大きくなる → 節税効果が高い
耐用年数が長い物件(鉄筋コンクリート造など)
→ 1年あたりの減価償却費は小さくなる → 節税効果は限定的
⑤低額譲渡は避ける
時価の半額を下回る価格で不動産を売却すると、「低額譲渡」とみなされる可能性があります。これは、意図せず税負担を増やしてしまう典型的な落とし穴です。
- 低額譲渡と判断されると、税務上は時価で譲渡したものとして計算し直される
- 差額は寄附金や役員への賞与として扱われ、かえって税負担が増える
特に役員へ売却する際は、事前に適正な価格を確認したうえで進める必要があります。
法人の不動産売却に関するFAQ
まとめ
この記事では、法人が不動産を売却する際の税金の仕組みと、活用できる節税対策について解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
-
総合課税による実効税率法人の売却益は本業の利益と合算される「総合課税」で、実効税率は30〜34%程度です。
-
個人と法人の有利不利所有期間によって、個人で売却した方が有利になるか、法人の方が有利になるかは変わります。
-
活用できる節税策特別控除や売却タイミングの調整、退職金への充当など、活用できる節税策は複数あります。
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